椅子座か床座か。 大正時代の生活改善同盟会

居間は椅子座か床座か。
住文化の変遷の中で今や和室の無い家も増えています。以前、女性建築士の会で今の暮らし方について座談会をした時に、部屋の様式(和室か洋室)に関わらず居間では床に座って過ごしているという方が半数以上おられました。冬はコタツを出すし、ソファーは背もたれとして使われているね、と言う話もお聞きしました。
戦後のアメリカンドリームと住宅事情により、日本の生活に一気に洋風文化が拡がったわけですが、玄関で靴を脱ぐことは変わりませんでした。
この洋風化の元はそれよりさらに前、今から95年前の大正11年に生活改善同盟会(文部省)が発表した「住宅改善の方針」にあるように思います。
その主な内容は
住宅を椅子式に改めること
間取りを家族本位に改めること
構造と設備の虚飾排除
です。
翌年に示された詳細の指針によると、玄関に関しては
実用性を重んじること、出入口は従来の引戸格子戸を排して堅牢な開き戸とすること、雑多な履物を整理する為の履物入戸棚設備の設置、脱ぎ履きに便利な段か腰掛けを設けること等が挙げられています。
日本の玄関に定番の靴箱は、この頃から定着しはじめたようですね。
なお、椅子式生活を主眼としながらも室内は室内ばきに履き替えることとし、西洋のように室内での靴履きより清潔で優れているとしています。
主に都市部における人口増加に伴う住宅建築にあわせて示されたもののように思いますし、基本的には家族主体の住居、伝統・格式からの脱却、父権主義的「家」の否定であるように感じますが、それに関連付けられて排除方向とされているような部分も感じます。地方では地域の気候風土、またはその地の生業との関係性が保たれた住宅の在り方がその後も続きました。

100年近く前に国の推進事業として、このような具体的な住文化の指針を出してきたことに若干の違和感を感じますが、玄関で靴を脱ぐことや根強く床座の暮らし方が続いていることなど、変わらない日本人の暮らし方はあるように思います。
いま住宅の設計をする中でも、日本的暮らしに沿う空間寸法(空間の重心位置等)や、手足に触れる素材を大切にしたいと思っています。


昨日東京で開催されましたシンポジウムで、パネラーの一人として参加された建築学科の大学三回生が「日本民家の開放的な間取りに将来的なものを感じる」と話をされていたのは印象的で、多様化と肥大化の行く先の何かを感じました。面白いですね。

写真は、奈良県宇陀市松山地区の重要伝統的建造物群保存地区の建物。
このような建物を見ると、ふと生活改善同盟会の指針を思い出すことがあります。「引戸格子戸を排して堅牢な開き戸に」、「構造の虚飾排除」と大正時代にうたわれた指針には影響されず(幸い、届かず)、その地の職人による伝統的装飾美で形成された美しい街並みが今も各地に残っています。

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椅子座か床座か。
長寿社会と床座の話はまた別の機会に。







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by frontdesign | 2015-09-26 23:52 | 和室と日本建築  | Trackback | Comments(0)

国産材・県産材でつくる木の住まいを設計しています。 奈良県生駒市


by yuriko iwaki
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