国産材・県産材でつくる木の住まいの設計 FRONTdesign

国産材・県産材でつくる木の住まいを設計しています。 奈良県生駒市

奈良町町家再生工事 西村邸

奈良町の西村邸は大正4年に建てられた町家建築です。
昨年から取り掛かっていた改修工事もようやく10月初旬に終わり、喫茶と民泊としてスタートされました。

左側の主屋には、奈良町の町家で見られる名栗格子の鹿よけがあります。年月とともに傷みが出てきていましたので、この度の改修で新調しました。右側の落ち棟部分(辰巳蔵)は、改修前は車庫として使われていたため電動シャッターが設置されていましたが、太格子をはめ込み伝統的な意匠に改修しました。

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改修前の外観。
落ち棟部分は屋根下地に傷みが見られたので下地からやり直して頂きました。
電動シャッターは当初の壁位置から少し手前に増設されていたため、軒が浅くなっていました。格子窓は元の位置に戻し縁(軒下)が復活しました。
解体して調べてみると、元の壁位置の柱には太格子の格子貫の痕跡や、大きな框が入っていた痕跡がありました。シャッターが取り付く以前には、全面格子だった時代があったことが伺えます。貫や框は痕跡の通りの寸法で、縦の太格子はこの貫サイズに相当する寸法で設計しました。


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主屋玄関から中に入ると奥まで通り庭が続きます。長い通り庭は町家の特徴で、通り庭の先には渡り廊下があり奥のはなれ棟と納屋棟につながっています。入口すぐの右側が喫茶室です。

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喫茶室入口。入口の建具は古建具を利用しました。古民家の縁側で使われていたガラス框の建具です。

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喫茶室内部。
元は車庫として使われていたところを喫茶室にしました。西村邸全体の中で一番変化した空間です。
座席は、カウンター席と窓側席があります。

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窓側の席は北の庭を眺めながらゆっくりしていただけます。

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西村邸名物の、奈良茶飯!
茶飯はほうじ茶で炊いた小豆ごはんで、江戸時代に流行し「外食の元祖」と言われていたそうです。奈良でも食べれるところはそう多くないそうです。
ほうじ茶の香りが芳ばしく、お米がひとつぶひとつぶ立っていてとても美味しいです。

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コーヒーは深煎りと浅煎りの2タイプがあります。スイーツはヴィーガンスイーツ。乳製品などの動物性の食材は使っていないスイーツですが、食べ応えがあります。
西村邸で提供されている食べ物や飲み物は、どれも身体に優しいお味がします。

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北の庭から見た喫茶室。
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喫茶室の建物は、ほぼ全体改修しています。外壁は腰まで杉板張りにし、外部用の柿渋を塗っています。

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主屋にもどりまして、
主屋は1列3室型の構成です。一番手前の部屋のミセノマは、畳敷きから杉の厚板張りに改修しました。床下には全体に断熱材を入れています。居室部分の窓ガラスにも断熱性能の高いガラスを入れ、冬場の熱の逃げが軽減するようにしています。

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ミセノマの通り庭側は4枚建てのガラス格子戸が入っています。靴脱ぎ石がとても長く、これほど長いものはなかなか手に入らなかったようです。

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建具には必要に応じてネジ締り錠や、キー付きの錠をつけています。
ネジ締り錠は古建具に取り付けても違和がありません。とても懐かしい錠ですね。

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ナカノマの前の通り庭は前庭に面しており、部屋にも明るさや風が入ります。細長い敷地にうまく庭が配置してあると思います。
土間に見える四角いものは瓦タイルです。ウナギの寝床状の細長い敷地なので建物の両側は敷地の余裕が無いため、給水、排水(下水・雨水)、ガス、電気配管の一部など、通り庭の下に多くの配管が通っています。メンテナンスのための点検口がこの瓦タイルの下にあり、タイルは取り外せるようにしてあります。
この通り庭は人が行き来する主な通路であると同時に、ライフラインの大動脈でもあります。

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ナカノマから前庭を見たところ。
2枚の引き戸を戸袋に入れると全開放になり、通り庭が半屋外的な空間になります。
櫛型の欄間からも光が入りとても良い景色です。

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庭側から見たところ。2枚の引き戸はガラス格子戸です。とても丁寧に作られています。

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オクノマ横の通り庭は火袋の吹抜があります。改修前は天井がありキッチンとして使われていましたが、天井を取ると綺麗な火袋が出てきました。

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東側に窓があり、吹き抜けの上部も明るいです。

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主屋オクノマ。
北側の庭に面して縁側があり、縁側の左側がトイレで右側に新たに洗面台を設置しました。手前はナカノマで掘りごたつがあります。

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北の縁側から見た庭。向かいには2階建てのはなれ棟が見えます。
庭には井戸があり、井戸が使われていた頃は暮らしの庭だったことでしょう。

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ナカノマから2階に上がると、2階も南北方向に3室並んでいます。真ん中の部屋は居間で両側の部屋が民泊のベッドルームです。

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雨漏りなどもありましたので天井板を新調しましたが、竿縁は元の竿を使っています。表の格子からやわらかな光が入るベッドルームになりました。

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居間。こちらは天井が傷んでいたので新たに竿縁天井を張りました。

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北側のベッドルームには床の間があります。床柱は野趣あふれる出節の床柱。樹種は何か分かりませんでしたが、かなりの古木のように思います。この建物は築約100年ですが、それよりもっと古いような印象です。どこかで使われていた趣のある床柱を再利用されているのかもしれません。この床柱を選ばれたご当主と棟梁の眼識に敬服いたします。
襖紙は鳥の子参号紙の灰色で、引手は元々使われていた引手です。灰色の襖紙は土壁の土色ともよく似合っています。

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壁には元々腰張りがされており、今回壁を全て塗りなおしましたので腰紙も新調しました。これは美濃和紙の湊紙で襖と同じく灰色です。土壁も和紙も床の畳も強い材料ではありませんので長年使う間にメンテナンスも必要になりますが、その柔らかさや脆さがとても自然で心地よさの秘訣のように思います。

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前庭から見る茶室棟。外壁も土壁で仕上げられた数寄屋建築です。
土庇と濡れ縁があります。車庫の続きの庭になっていたので、広いスペースを確保するために濡れ縁の半分と左の袖壁も撤去されたいたため、今回の改修で再生しました。濡れ縁に使った名栗材は、鹿除けで使われていたもののうち傷みの少ない材で作っていただきました。

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壁以外は大変状態が良く、建築当時のまま使われていましたので土壁の塗り替えと畳の入れ替えのみの工事になりました。
建具類も大変良質の建具です。障子の腰板は艶のある良材の網代です。

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南の障子を開けると向かい側に喫茶室が見えます。
外部と室内の仕切りは障子紙1枚。現代の住宅ではまず考えられないのですが、この室の中で障子を閉めて耳をすますと障子越しに鳥の声や草木の揺れる音が聞こえ、大変風情があります。昔の日本の住まいを体感できる空間です。この茶室は宿泊室ではありませんが、気候の良い時期に泊まることが出来るのも良いように思います。

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床の間には墨蹟窓があります。この障子も掛け障子で、取り外すと外部空間です。
こちらの床柱も野趣あふれる中曲がりの変木で、樹種は何かわからなかったのですがお詳しい方のお見立てでは藤の木とのことです。

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床の間のあるお部屋に行くと必ず床天井を拝見しますが、こちらの床天井は変木のいわゆる洒落木で、やぶれとか虫食いとか言われている穴の開いた流木のような板です。和室を拝見する中で何度かこの木が使われているところを見たことがありますが、床天井に使われているのは初めて拝見しました。
床天井は床柱と同様に、あるいはそれ以上に、その建物への思いが表れている部分です。普段はめったに目にしないところに思いを表すのは、日本の美意識のように思います。
この床天井を拝見していると、ご当主と棟梁が材を選ばれたときの会話が聞こえてきそうで、とても楽しくなります。この藤の床柱と併せて、並々ならぬ粋な遊び心が伺えます。

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土庇の天井は小舞天井で、垂木は竹とこぶしが交互に配置されています。建物の柱は面皮付きではなく全て出節丸太です。

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このような軒下の景色が日本建築の美しさのように思います。


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昔は市井の住宅普請でもこのような造作が普通に作られていましたが、今はなかなか経験する機会がありません。この土庇の袖壁を復元する際には、熟練大工さんが若手大工さんに教えておられました。

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茶室北側の庭。こちらのお庭は高低差のある庭に作り替えられました。元の塀は高いブロック塀でしたが、倒れる危険性もありますので高さを低くして手前に杉皮張りの塀を作られました。庭木のほとんどは、元々こちらに植えられていたものを位置を変えて植え替えられました。自然石もこの地にたくさんあったものが使われています。かなり古い石(加工がされているもの)もあったそうです。

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渡り廊下から東の庭を見たところ。前庭とはまた違い苔の美しい緑の庭です。左側には納屋棟があります。
渡り廊下の袖壁は傷んでいたのですが、大工さんに腰板張りを直していただき、下地窓も含めて左官屋さんに土を塗っていただきました。お茶室もですが、土壁の厚みが薄い壁はとても難しいそうです。綺麗に仕上げていただきました。

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西の庭は、井戸のある暮らしの庭です。

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主屋の通り庭を出るとそのまま渡り廊下に通じます。右側が納屋棟、左の奥にはなれ棟が見えます。

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大きな井戸で、石組みの井筒がとても立派です。鶴瓶も今は使われていませんが、こちらもなかなかの存在感です。

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庭の奥のはなれ棟は全体工事の一番最初に改修工事に着手した建物で、昨冬に竣工しております。

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はなれ棟は、元は1階2階とも床の間付きの座敷がでしたが、1階は床を杉板張りにしてキッチン付きの居間に改修しました。

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はなれ棟完成時のブログ。



西村邸はウナギの寝床状の細長い敷地の中に、奈良町の町家の特徴である通り庭や渡り廊下、外部の庭、茶室などが配置されています。趣のある丁寧な普請で、ご家族のみなさまが大切に住み継がれてきたことを感じる建物です。元の佇まいの風情を損なわないように、木、土、紙、そして石を使い職人さんの手仕事で改修していただきました。奈良町の町家建築を体感していただくことが出来ますので、お近くにお越しの際には是非訪れていただければと思います。どこか懐かしいような、親しみを感じていただける建物です。

西村邸のホームページ 
スペースのご予約はこちらから。
”おばあちゃんちから巡る、これからの奈良町”



改修設計:FRONTdesign

施工:(有)武中建設




Commented by ame-no-michi at 2019-12-17 10:18
奈良に出向く機会があれば訪ねてみたいですね
銅雨といやensuiなどご採用ありがとうございます
Commented by frontdesign at 2019-12-17 16:41
> ame-no-michiさん
コメント有難うございます。銅雨樋は角面取りのしずくシリーズを使わせていただきました。角樋、あんこうとも、本当に良い恰好ですね。樋がついて建物がよりしっかりとした印象になりました。
by frontdesign | 2019-12-17 07:00 | 町家改修 奈良町 西村邸 | Trackback | Comments(2)

by yuriko iwaki